最終章~前編


【白色のアイリス~幕間】

ゼデキア

:学園都市の中央に位置する一つの広場。

:ここは「フラワーガーデン」と呼ばれる場所だ。
:周囲の花壇には花々が乱れ咲き、美しい景観を誇っている。

:しかし、この場に近づく者はそうそういない。
:――そういう「仕組み」になっているからだ。

:そんな場所で一人、ゼデキアはぼんやりと花々を見ていた。

:その背に近づく、一つの足音。


羽鳥陽

……来てたんだ


ゼデキア

…ああ」振り返らずとも、もう声だけで誰かわかる。

「君も、来たんだな」


羽鳥陽

:ステラバトルの前日だというのに、パートナーの部屋を飛び出してきた。

:それなのに何故かここに足が向いていた。それはロアテラの影響によるものか、果たして……。

「なんか、自分でもよく分かんないんだけどね」

「何でここに来たのか


ゼデキア

「俺もだ」そう答え、ようやく振り返る。

:そこには、見慣れた相棒の姿。……ともに、“大切な人を取り戻す”と誓った少女。

「――陽。俺は」

:伝えなければならない。今ここで伝えなければ、もしかすれば、もう二度と――。


羽鳥陽

じっと、ゼデキアの言葉を待つ。


ゼデキア

「確かに、先生に救われた。彼の教えは、今でも俺の胸の中に息づいている」

:忘れることなどできるはずもない、あの笑顔と……そして、たくさんの思い出。

「だが今は」

「今はそれだけじゃない。今俺が戦っているのは……」彼のためだけではなくて

「陽。……君と過ごす日常を。俺は……大切に思っている」

:そう告げる声は震えていた。


羽鳥陽

「過去を大事にしてるからこそ、ステラナイトとして戦っているってことはわかってる、私だって同じ願いを持ってるから」

「わかってたけど、けどね。私……お兄さんが過去だけを、先生のほうだけを見てるような気がして、寂しくなっちゃって、ごめんね」

「だから、今あたしと過ごす日常が大事だって言ってくれて……嬉しいな」


ゼデキア

……」沈黙して聞き入る


羽鳥陽

「戦おう、これがきっと最後になるよ。4体もやっつければ勲章だっていっぱいもらえるでしょ、願いはきっと叶う


ゼデキア

「……あり、がとう。……君も、俺と過ごした日々を……大切に思ってくれるか?」


羽鳥陽

「当たり前じゃない。私はいつだって……大事に思ってたよ、お兄さんと過ごす時間。最初はそうでもなかったけど……いつのまにかそうなってた


ゼデキア

「そうか。良かった……」安堵した表情。だが、まだ苦しそうな表情。

「俺は、今夜もここで戦う。だが、もう。俺は……俺たちの願いはきっと……――」

:最後まで言えなかった。


羽鳥陽

「願いはもう……ってどういうこと? ねえ!


ゼデキア

……言えない。いや、言いたくないんだ。俺だって、認めたくない……」多くの戦場をくぐってきたからこそわかる。 

:もう自分達は手遅れなのだ


羽鳥陽

「なんとか言いなさいよ!


ゼデキア

「言ったとして、俺たちは救われるのか? 俺たちの願いは叶うのか? そうじゃない。そうじゃないだろう……!」


羽鳥陽

「そんな……


ゼデキア

…………すまない」そう答えるのが精一杯で。


羽鳥陽

:覚えはあった。かつて親友と過ごし、今はゼデキアと過ごすあの店。妙に居心地が悪かった気がする。

:友達からの他愛もないメッセージ。なんてことない内容にあんなに苛立ったことがあっただろうか。

:全てを理解した。自分たちは手遅れなのだ


ゼデキア

:――それでも

「“戦わなければならない”。それが……俺たちの最後の務めだ」


羽鳥陽

……それも、いいかもしれない」


ゼデキア

……どういうことだ?」静かに聞き返す。


羽鳥陽

:最高の笑顔で、こう言いましょう。

「あなたのパートナーとして、世界を滅ぼすっていうのも悪くないかな」

願いを絶たれた絶望ゆえか、ロアテラの影響か……それは誰にもわからない。


ゼデキア

――陽……」

:彼女の笑顔を、これほどに悲しく思ったことが、今まであっただろうか?

「君は最後まで俺の側にいてくれるのか……?」こんな、

:大切な人も守れず、願いも叶えられず、あげく彼女に消えない傷を残した自分を。

「最後まで、一緒に戦って…――」

:言葉は途中で途切れた。

:彼は天を仰ぎ見て、目を閉じる。

「――いや」意を決し、視線を戻す。彼女を、正面から見据える。

「最後まで、一緒に戦ってくれ、陽」

「世界を滅ぼすことになるとしても。俺たちが滅ぶことになるとしても」

「君にいてほしい……最後の、そのときまで」


羽鳥陽

「最後まで、一緒にいるよ」

「戦いましょう。終わりのときまで……」

「ゼデキア、あなたに力を」


ゼデキア

――ありがとう」そう答えて、彼女に向かって手を差し出す。


羽鳥陽

:こちらも手を差し出しましょう。


ゼデキア

:ゼデキアは陽の手をしっかりと握った。

『天に祈れ』


羽鳥陽

『星に誓え』


ゼデキア

『神は力


羽鳥陽

『力こそ真理』


ゼデキア&羽鳥陽

『終わりなき戦場に夢を視よ


ゼデキア

:そう――夢を視ていたのだ。

:その夢も、もうすぐ終わる。

 

:ゼデキアと陽を包むように、白いアイリスの花びらが舞う。

:陽の姿は光となって消え……代わりに

:彼の手には、太陽のように輝く、まばゆい純白の大剣の柄が握られる。

「……陽。今までありがとう。叶うことなら……君は。君だけは」剣に額を寄せ、そう呟いて。

 

:周囲の景色が歪み――星々のきらめきが濁流のように押し寄せ――

:願いの決闘場は、“終わりなき戦場”と化した。

 

 



【最終章】

GM

:とうとう来たわね、ロアテラに支配されし者
:そしてよく来てくれたわ、星の騎士たち
:剣を持って示しなさい この世界はまだ戦えるのだと
:――いざ開け、願いと可能性の舞台

 

 


【舞台~終わりなき戦場】

GM

:数多の流星が降り注ぐ丘の上。
:頂上に突き立つ十字架。その周囲に乱れ咲く白きアイリス。
:十字架の前に、異端の騎士が一人佇む。
:深紅の瞳があなたたちを見据えた。


ゼデキア

「ようこそ、星の騎士たち。ここが俺の戦場。夢にまで視た最期の地。さあ……命尽きるまで、共に踊ろうか」


GM

:彼は微笑み、閃光放つ大剣の柄を握って。
:常人なら持ち上げることすらままならぬそれを易々と振り上げ、切っ先をあなたたちに向ける。
:これこそが、戦場に焦がれ、戦場に愛された戦士の成れの果てだ。


ゼデキア

「もはや失うものすらない。迷う理由などない。俺に残された道はただ一つ。戦いに生き、戦いに散ること。どうか終わらせてくれ。俺の血濡れた戦場を……!


GM

:その声が震えるのは歓喜ゆえか、絶望ゆえか。

 

:今宵もまた、星は巡る。
:願い在るなら剣をとれ。勝利を以て証明せよ。

:あなたたちの――誓いを。

 

 



【開幕の言葉】

ゼデキア

「今宵の騎士は4人か。できれば、君たちの名を聞きたい」 

「これから、存分に戦う相手だからな」そう言って、彼は真紅のドレスを纏い戦斧を構えるルビィに視線を向ける。


ルビィ・スプライト

「私はルビィ、ルビィ・スプライト。あんたに恨みはないけど……世界のためよ、悪く思わないでね!」


ゼデキア

:それを満足げに聞いた彼は、続いて白い軍服に身を包むガルテリオに向き直り。


ガルテリオ

「俺の名はガルテリオ。――お前のような戦士に巡り合える日を願っていた。存分に味わうと良い。俺たちの……いや、この世界の力をな!」彼は好戦的に笑って、曲刀をゼデキアに向けた。


ゼデキア

:同じ戦闘狂かと乾いた笑い声を上げ。 

:次は清らかな白いドレスをまとう聖女――セラミカに目を向ける


聖・セラミカ

「――あなたは」聖の頬を、一筋の涙が伝う。

「あなたは、なんと哀れなのでしょう。……わたくしが。この聖・ツァドキエル・セラミカが――あなたを救済して見せます


ゼデキア

:救済……できるものならお願いしたいところだ、と諦めたように。 

:最後に、黒い衣服を纏いサーベルを携えた青年、エクサルを見やる。


エクサル

「……エクサル。エクリプスの想いに興味はない。しかし"終わらせたい"と望むのであれば。我が願いの糧として、その望み、叶えよう」


ゼデキア

「……そうか。今宵の騎士たちこそ、俺の戦場を終わらせてくれるのか」 

「ならば武器をとり。俺に向けろ。己の願いの全てをかけて――」


ルビィ・スプライト

「言われるまでもないわ」戦斧をくるっと一回転させ、構える。


ガルテリオ

「もちろんだとも。容赦も情けも必要ない……お前の戦場はここで終わる! 俺の行く手と阻むのならば、――お前を、捻じ伏せる!」彼は強気に笑って曲刀を構えなおした。


エクサル

:言葉はなく、鞘からサーベルを引き抜く。初めて持つ筈のそれは、思いの外手に馴染んだ。


聖・セラミカ

:そっと、杖を抱くように構える。

:彼は前回戦ったエンブレイスよりもずっとずっと哀れに見えた。

:―――必ず、この手で救わなくてはならない。