ガルテリオ
:希望「まだまだ物足りない」 願い「欲しいものがある(絶対的な力)」
:終わりなき戦場からこの世界に流れ着いた隣人(ネイバー)です。
:褐色肌に多くの古傷が目立つ大柄で筋骨隆々とした男です。ひょうきんで寛容なつかみどころのない男ですが、戦闘に関しては別です。戦場には彼の求める強敵がいるから。
:彼は幼いころから戦闘員として生きてきました。そこで彼の根底に染みついたのは、力こそが存在価値であるということ。強さこそが正義であるということ。戦場を前にした彼はふだんの友好的な表情の合間に、冷徹な笑みを見せるでしょう。
「オレは、どんな存在だろうと捻じ伏せられるような絶対的な力が欲しい。そのためなら、いかなる苦境だろうと乗り切ってみせるさ」
:なにものにも屈さない力の頂。強者だけが見ることを許される世界。それを求める限り、彼は前に進み続ける。ともに高みを目指すパートナーとともに。
東原さつき
:シース、東原さつき。
:アーセルトレイ公立大学に所属する21歳女性。
:絶望:この手は届かない、願い:欲しいものがある(絶対的な力)
:血縁的な親が犯罪者で、一度も会ったことのない親の背負った罪のために幼少期から「犯罪者の子」というレッテルを貼られてきました。
:しかしさつきは強い子だったので、持ち前の明るさと優秀さで周囲を黙らせて生きてきました。
:そんなふうに生きているとそのうちに親の悪評も落ち着いて、周りの人々もそれを忘れ、さつきの周りにそれを知らない友人もたくさんできました。
:しかし『アーセルトレイ運営に関わるエライ技術者になる』という夢が叶いそうな時、さつきの知らないところで『そんな重要な仕事、犯罪者の親を持つ人間には任せることはできない』という話になっていたらしく、夢を失い、友人も減りました。
:(多分いろいろなことに寛容っぽいアーセルトレイにおいてそこまで言われるってことは、きっと親はすごいヤバイテロリストとかそういうんだったんだと思います)
:そして「私自身がどれだけ品行方正なふるまいをして、一度も悪事を働いたことがなかったとしても、どれだけ能力があってもダメなんだ」と絶望し、血すらも捻り潰せるような絶対的な力を求めたときに出会ったのがブリンガーのガルテリオでした!
:彼との交友を深める中で、元来の明るさと腹ペコキャラを取り戻したさつきは、彼と共に願いの先を目指すことになりました!
「はいはい、そこまで。早く学食行かないと石焼カレーまぜそばなくなっちゃうでしょ!」
ガルテリオ
:――高い天井、それを覆いつくすように伸びる本棚。多くの蔵書が納められた図書館の片隅。人気のないそこで、机の上に本や文献を広げて椅子に腰かけている若い男女の姿があった。
:男は大きく伸びをすると、一つ息を吐き、頭の後ろで手を組んで隣に座る女性に声をかける。
「はあ~……やっぱりまだこの世界には俺の知らないことがたくさんあるな。特に自然現象のこととか元いた世界とは違うし……レポート、お前に手伝ってもらって助かってるぜ」彼はへらりと笑った。
東原さつき
「うん? こっちの世界と元居た世界とでは色々と勝手が違うってことは想像できるけど、自然現象までそんなに差が出るんだ?」
:右手にペンを、左手にサンドイッチを持ちながらてきぱきと勉強を教えていたさつきはその言葉にふと目を上げる。
ガルテリオ
「あ~、どうなんだろうな。世界の仕組み自体か文化が違うのかはわからねえけど……」彼女がサンドイッチを持っていることに男は触れない。いつものことだからだ。
「俺がもといた世界の空は、常に戦塵や硝煙でくすんでた。だから、自然環境が違うように感じるのかもな。特に、『星』なんてものに関しては」
東原さつき
「ほほぉ~、じゃあここら辺の成績がよくなかったのもそのせいかな?」といたずらっぽく天文学のレポートを指す。
ガルテリオ
「はっはっは! そういうことで頼む!」と彼は明るく笑って天文学のレポートをさりげなく他の文献の下に押し込んだ。
東原さつき
「……あ、それならもしかして流星群とかも今度のが初めてだったりするのかな」ムシャムシャ
ガルテリオ
「ああ、そうね、『流星群』……そういったものがあるってのは、この世界に来てから知ってたが、この目で見るのは初めてになるんじゃねえかな。……それも、まさか、ステラバトルの当日の夜とは」一瞬彼の笑顔は冷たさを帯びる。
「女神も粋なことをしてくれる」
東原さつき
:あ、隠した。と思いながらもそれには特に触れず、次のサンドイッチを手にしながら。
「そっか、それならもうちょっと落ち着いて見られるシチュエーションならよかったんだけどね……なかなかそうもいかないね」と少しシリアスな表情を見せます。
ガルテリオ
「……まあ、そうだな。だが、良いじゃねえか。俺たちは『星の騎士』なんだぜ? 流星群の下で、『エクリプス』と戦うってんなら、それこそまたとない経験だ。……きっと最高の戦場になる!」
:彼は陽気に笑う。今までにくぐり抜けてきたステラバトルのことを思い出しながら。
東原さつき
「確かに、星の騎士には似合いの舞台かもね!」ガルテリオの頼もしい笑顔につられてさつきも笑みを見せる。
「でも、油断はしちゃダメよ? 今まで戦ってきたのと違って、敵も実戦経験が豊富そうだから」
ガルテリオ
「おう、わかってるよ。今回も頼りにしてるぜ、さつき」
:ふと、ガルテリオは真顔でさつきを見る。そして、控えめに微笑んだ。
「……やっぱり、お前は笑っている方が良い。出会った頃のお前よりは、ずっとましだ。まあ、笑うようになった分、食欲も取り戻しちまったみたいだがな」
:彼の脳裏に、一瞬、図書館で暗い顔をして座っていたさつきの横顔が浮かんだ。――そうだ、あの頃よりはずっと良い。
東原さつき
「なーに、急に?……まああの頃は何食べてもあんまりおいしくなかったからね、君がいると飯がうまい」と冗談めかした表情で手にしたサンドイッチを一口で頬張って見せる。
「…そういえば、初めて会ったのもこの図書館の…ちょうどこの席だっけね」
ガルテリオ
:ガルテリオは小さく頷いた。
「ああ、そうだ。お前が、あんまり暗い顔してるもんだから気になってよ……俺も、勉強を教えてくれる相手が欲しかったし、お前が大学の同期だってのはちらっと見て知ってたから……それで、声をかけた」
「『時間があるなら俺に勉強を教えてくれ、あんた賢そうだから』ってな。……まあ、それは半分建前でもあったわけだが」彼は小さく息をついてさつきを見て微笑む。
「気になったのさ、どうしてあんたがあんなにも『絶望』に満ちた顔をしていたのかがな」
東原さつき
「なつかしーね、2年前? とかだっけ?
あの時は自分に声をかけてくる人っていえば『親がヤバいってほんと?』だの『あなたみたいな人がいると他の人がおびえるからどうのこうの』だのばっかりだったもんだから……最初は君にもけっこう警戒してたよね、私」
「君もどうせそういうのなんだろって思ってたけど、違ったね。全然そんなじゃなかった。……そんなじゃなくて、よかった」
ガルテリオ
「大学入った頃だからそうなるな……まあ、俺はそんな噂知らなかったし、知ったところで気にしねえからな。お前はお前だ。親なんて関係ない」彼は真顔で言った。
「周囲がどんな偏見と理不尽でお前を定義付けようとも、そんなものは捻じ伏せてしまえば良い。自分の価値を決めるのは自分だ。お前に罪はない……あるとするなら……」きっと戦場で生まれ育った自分の方だろう、と彼は続けはしなかった。代わりに小さく咳払いする。
「ああ、なんでもねえや。それにしても、お前はそんな細い体で良く食うな。食った分はどこに消えてんだ」いつものように明るく笑った。
東原さつき
:まーた変なこと考えてるんだろうなー、と思いつつも、それに触れるのはよしておいた。
:彼の生まれた世界がどれだけ過酷だったかは話を聞いてそれなりに理解したつもりでいるし、そこにフォローを入れるのも意味のないことだったからだ。
:それに、彼の生まれた世界がどうであろうとさつきは気にならない。
:少なくとも先ほど隠した天文学のレポートほどの気になることではない、とさつきは思った。
「うん、理不尽全部捻り潰しちゃお。そのために戦っているわけだしね」
「……それと、食った分はちゃんと消費してますー。頭脳労働もエネルギー使うんだからね!」
ガルテリオ
:一瞬きょとんとしてさつきを見たが、そのあと納得したように笑った。
「そういうことか! これで俺もまた1つ賢くなったな!」明るく笑ったあと、ガルテリオはさつきに向き直った。
「そうだな、全部俺たちの力でねじ伏せるんだ。俺たちはどんな理不尽にも、いかなる苦境にも屈さない」彼の表情は珍しく真面目だった。
「証明してみせよう。俺たちの力を、価値を、正義を、この世界に。それこそが俺たちの願い――星の騎士たる所以」
「たとえ、明後日の戦いがどれほど過酷だとしても。お前となら乗り越えていける。絶望の中から這い上がってきたお前となら――俺たちは高みへと至ることができる」彼はそう言って強気に笑い、さつきに拳を合わせるように突き出してみせた。
東原さつき
「…うん。君なら――君となら、届くって確信してる。どんなことにも絶対に負けない力を……一人じゃあだめだったけど、君となら掴むことができる」
「見せつけてやろうね、私達の強さ。エクリプスと……あとついでに他のステラナイトたちにも!」とん、と軽く拳を合わせる。
ガルテリオ
「おうよ! フラワーガーデンにいる全員に俺たちの強さを見せつけてやろうぜ!」合わせられたさつきの拳から伝わる温度を感じながら、彼も明るく笑う。
東原さつき
「でも……その前に、私達にはこれから行くべきところがありますね?」
ガルテリオ
「も~ちろん、わかってるぜ?」ガルテリオは机の上の本と件のレポートを片付けながら立ち上がった。
「メシ行くか! 頭脳労働をして腹が減ったからな!」彼はさつきに笑いかけた。
東原さつき
「よ~~し! 私もお腹空いたしいっぱい食べるぞ~~!」
ガルテリオ
「よ~し、じゃあ今度こそお前の本気を見せてもらうか! お前の食べっぷりは見てて気持ちがいいからな!」2人は笑って荷物を片付け、席を立つ。
:過去は関係ない。今は前に進むだけだ。隣を歩む、この上なく頼もしいパートナーとともに。
ガルテリオ
:――吹き荒れる風、舞い上がる砂塵、辺りに充満する硝煙の匂い……今でも、戦いの前には思い出す。
:戦場にいた頃のことを。命令がすべてで、『戦う意味』などなかった日々のことを。
:ただ、今、自分は『新しい世界』で笑って生きている。
:それが、正しいことなのか、赦されることなのか、そんなことはわからない。それでも、どうしても欲しいものがある。確かに、この心には揺るがぬ願いがある。
:その願いを叶えるまでは、立ち止まらない。必ず、掴んでみせると誓った。――隣に並ぶ、彼女とともに。
「いや~、食った食った。やっぱりここのメシは最高にうまいな!」
:――穏やかな昼下がり。行きつけのレストランから出てきたガルテリオとさつきは晴天の眩しさに目を細めた。ガルテリオが陽気に笑った。
東原さつき
「うん、特にあれが最高、石焼カレーまぜそば。……と、デミグラオムライス。とシーフードピザと、ジビエ肉の……」
:放っておけば全メニュー制覇しそうな勢いで料理名を挙げていく。
:ああ、本当に、ガルテリオがいると飯がうまい。
ガルテリオ
「はっはっは! 今日もよく食ったな、お前は!……まあ、ステバトルの前のお決まりみたいにはなってるけどな」ガルテリオも彼女の食べっぷりを好ましく思っている。彼女とともにする食事はいつだって楽しい。
:そして、ふと思い出したように彼は笑う。
「……よし、時間もあることだし予定通り探してみるとするか。流星群がよく見えそうな場所を」
東原さつき
「ん、よし。じゃー食事後の腹ごなしも兼ねて行きますか」
:お星さまが見たい……と言うほどロマンチックでもないが、ガルテリオにとっては初めてのものだ。
:前日にちょっとくらい張り切って良いスポットを探してもバチは当たらないだろう。
:そこらへんの公園とかじゃ他の人も来るだろうから落ち着けないしやっぱもうちょっと、こう――。
:ということで、本日のミッションはいい感じの流星群スポットを探すことなのであった。
ガルテリオ
「おう!……ああ、もちろん、途中で弁当を買ってからな。これはちょっとしたピクニックになりそうだ」
:さつきには彼が少しはしゃいで見えているだろう。だが、ガルテリオ本人にその自覚はないのだった。そして、彼女のささやかな気遣いを彼はほんの少し感じ取っていた。
東原さつき
「お、いいね~ピクニック。がぜんやる気出てきた……んじゃコンビニでも寄ってこ」
:弁当を買って……というワードを聞いて、思わずお腹が空いてくる。
:ガルテリオはさつきの境遇にも悪評にも腹ペコにも引かずについてきてくれる、唯一の人間だ。
いい場所を探して歩き回る……みたいな体を動かすことはあまり得意ではないが、まあ、彼が喜ぶなら―今日くらいはいいだろう。
ガルテリオ
「了解! じゃあ、店に寄って買い込んでから場所探しだ!……ああ、なんなら荷物は俺が持つぜ? お前はあんまり体力仕事は得意じゃないだろ」からかうように笑う彼は楽しそうだった。
:そんな冗談を交わしながら。さつきが思っていた以上に弁当を買い込んだので結局ガルテリオが荷物は持つことになった。
:その、しばらく後。2人は歩き回ったあとに、景色の良い小高い丘へとやってくる。
:吹き抜ける風、たなびく草花、どこまでも続く青い空。
:荷物を置いて、周囲を見渡す。
「何度見ても、この世界は綺麗なもんだよなぁ」と少し不思議そうにガルテリオは言った。
東原さつき
「そう? 私はここの生まれだから、ちょっとよくわかんないけど……」
「でも君にとってそう見えているのなら、なんか私もちょっと嬉しいかも」
:そう言いながらさつきも周囲を見渡す。
:ここなら周りに高い建物はそんなになさそうだし、方角的にも…悪くない。 住宅街からそこそこの距離もあるので、人も集まってくる感じでもないかな。
:さつきの目にはいつもと変わらぬ、いつもの平和な街だった。
:……きっと、彼には少し違って見えているのだろう。
ガルテリオ
「嬉しい?……不思議だな、俺がそう思うとお前は嬉しいのか」ガルテリオは少しきょとんとする。
東原さつき
「んー、自分が住んでるところを褒められると悪い気はしないでしょ。ほら、ここの運営に関わるぞっていうのが一応私の夢でもあるし?」
「それにまぁ……」君がそういう感情を抱いていることそのものがちょっと嬉しいっていうのも多分にある。
ガルテリオ
「でも、ここはなかなかいい場所なんじゃねえか?流星群がよく見えそうってのもあるけど……ちょうど良い頃合だし、ここで弁当食おうぜ! 腹減った!」彼はそう言って笑うと、運んできた弁当をさつきの前に突き出す。
東原さつき
:けど。
:それをどういう言葉で伝えるものかと考え始めたあたりで、目の前には食料がドンと突き出されてしまったので。
「待ってました! お弁当コーナーにこれしかなくてつい買い占めちゃったよね~……ガルテリオも食べたいの好きに食べていいからね、あ、でもたまごツナサンドはダメ」
ガルテリオ
「はいはい、わあってるよ。お前のたまごツナサンドに手を出したら最後……だもんな。そんじゃあ、いただくとするか」彼も笑い返し、その場に腰を下ろして弁当を開く。何気ない、けれど新鮮な日常。
東原さつき
「わかっていればよろしい」
:隣に座り、お茶とお弁当とたまごツナサンドをいい感じにセッティングする。
「いただきまーす」
:屋外での食事は意外にもあまりやったことがなかったな、と思いつつも、これもまた居心地のいい時間であった。
ガルテリオ
:他愛もない会話を交わしながら、2人は食事を終える。
:そのまま、座り込んだまま少しの間黙っていた2人だったが、ふと、ガルテリオがなにかに気付く。
「おっ」
:彼は近くに群生している草花……シロツメクサの方に手を伸ばし、葉の1つを摘み取って、それをさつきに見せてはしゃいだように言った。
「これ、四葉のクローバーじゃねえのか!?
ひゅー、やったぜ! 今までどんだけ探しても見つからなかったのに、こんなあっさり見つかるとはな!!」彼は子供のように笑った。
東原さつき
「ん、ごほっ……え?」お茶をむせかけながら、ガルテリオの手の中を見る。
:大きな大きな手の中に、小さな葉がひとつ。
:それは確かに四つの葉をつけたクローバーだった。
「おおっ……本当だ、やったじゃん! ずっと見つけたがってたもんねぇ……」
:四つ葉探しを手伝わされたいくつもの思い出がよみがえる。
:あと5分探して見つからなかったら帰るよって言ったのに、その三倍は粘ろうとして大変だったっけね……。
:見かけに似合わないその趣味に最初こそ呆れていたが、いつしかクローバーの群生地を見つけると、さつきも(あ、ガルテリオが探したがりそうだな)とついつい目で四つ葉を探すようになっていた。
:はしゃぐパートナーの姿に、思わず笑顔になってしまう。
ガルテリオ
:笑顔のさつきを見て、ガルテリオは真顔で考えるそぶりを一瞬見せた。だが、いつものように飄々とした笑みで、四葉をポケットに入れる。
「お前にも散々手伝ってもらったからな……」と彼は小さく呟いた。
:そして、顔を上げて真顔でさつきを見る。
「……さつき。頼みがあるんだが」いつもより真剣な声音。
「一発、俺を殴ってくれねえか?」
東原さつき
「……」
:何を急に……と思案する、さつき。
:しかし思案は一瞬で終わり、容赦のない拳をガルテリオの頬に浴びせた。
:グーだ。
ガルテリオ
:グーだった。とガルテリオも一瞬思う。
:だが、なんとなくそうだろうとは予想がついていた。頬に残る僅かな痛みを感じながら、彼は小さく笑った。
東原さつき
:武闘派などでは全くないさつきの拳だ。
:構えもなっていない、握り方もなっていない、威力もあるとは言えない――彼が過去に元居た世界で受けたものに比べれば児戯に等しいだろう。
ガルテリオ
「ありがとうよ。……これで、踏ん切りがつきそうだ」
:彼は眼前の平和そのものの景色を見遣り、ぽつりぽつりと話し出す。
「戦闘員として生きていた頃、俺には恐れなどなかった。命令が全てだった。恐怖心を捨てれば、人間は強くなれる。……俺は、それが当然として教えられる世界で生きていた。戦うことに、意味なんてなかった」
:彼はさつきに視線を戻す。彼女が拳を痛めていないか、少し気がかりだった。
「だけど今は違う。俺は、俺の意思で、お前とともに戦っている」
「お前と駆け抜ける戦場はいつも楽しいぜ。でも、それと同じくらい、こうして『平凡』な毎日を過ごすことも楽しいんだ」
「だから、相手が今までとは違う、エクリプスだと知ったとき……俺は微かに『恐れ』を感じた」
「もしかしたら、お前に消えない傷を残すことになるかもしれない。お前と過ごす日々を失う日がくるのかもしれない。……そのことを恐れていた。我ながら、これが『恐れ』なのかと驚いたけどな」
「でも、お前だって固い決意の元に願いを背負って俺と一緒に戦ってる。だから、そう思うのは無粋なことだろうってわかってた。それで、お前に喝を入れてほしかったのさ」
:珍しく自分の過去や感情について話したあと、彼はさつきに笑いかけた。
東原さつき
:しばらく黙ってガルテリオの話を聞いていた、さつき。
:彼から「恐れ」などという単語はあまり聞いたことがない。しかも、それが自分の抱いた感情として語られるのは初めての事だろう。
「一瞬、私を傷つけたくなくて戦い辞めたいとか言い出したらどうしようかと思っちゃった」
「けど……でもま、君はそんなヤツじゃないよね。ちゃんと私の事信じてくれてるって知ってる」
「人殴ったのなんて初めてだったけど、ちゃんと君の芯に届いたみたいだね」
「……うん、いい顔してるよ、君」
ガルテリオ
:ガルテリオはさつきの言葉を聞いて、いつもの強気な笑みを見せた。
「お前の覚悟、確かに受け取った。もう、恐れはしない。俺は、俺たちは、願いを叶えるまでは立ち止まらないと誓ったんだ。あの日、お前とともに」
「お前となら、過去も、罪も、恐れも――それ以外のすべても、超えていける。そう、信じている」
東原さつき
「君との戦いが。契約が。君が……君となら、私……。
それが私に残された唯一の希望、なんだからね」
:そう言って、自信に満ちたパートナーの顔を見る。
:ああ、これだ。
ガルテリオ
:少し気が抜けたように明るく笑う。
「たしかに、俺たちが戦うのは自分たちの願いを叶えるためでもある。でも、この世界のためでもあるんだとしたら……それはそれで、悪い気はしねえ。お前がここで夢を叶えるためにも……そう、思ったよ」
東原さつき
「そうだね、ここは私の夢の舞台でもある。私達の、世界だ。……頼んだよ」
:そんないつになく真剣な顔から、いつものいたずらっぽい微笑みに戻って「ま、もう大丈夫だと思うけど。必要ならまた何発でも殴ってあげるから」
ガルテリオ
「何発でもってのはちょっとな……」と苦笑した。
東原さつき
「あはは。別に痛くないでしょ、君なら」
:そう笑って――ふと、そばのシロツメクサを見やる。
:あれは………。
「ねえ、これ。見て見て、ほら!」
:そっと摘んだそれは、まさしく四つ葉のクローバーだった。
ガルテリオ
「えっ、おいおいまじか! すげーな! 今日に限って2つも見つけるなんて、俺たちの勝利は約束されたも同然だな!」と彼も驚き、明るく笑う。
「……さつき」そして、拳を付き合わせるように彼女に向って突き出した。
東原さつき
「ん」
:そっと、拳を合わせる。心なしかいつもより、ちょっとだけ強めに。
ガルテリオ
「勝とうな。絶対に」彼もいつもより強めに合わせられた拳に彼女の意思を感じて、笑った。
東原さつき
「うん、絶対にね」大きな握りこぶしから伝わってくる体温。――彼となら。
:彼となら『絶対』という儚い単語も、心から信じることができる。
ガルテリオ
:ガルテリオは笑って頷いた。――自分と彼女は今、たしかに綺麗なこの世界で生きている。
:互いに背負う過去が、罪が、どんなものだったとしても。敵を前にしたときの己の冷徹さが、願いを前にしたときの己の勇猛さが、かつての罪の名残だとしても。
:それでも、この力が、この世界と、隣に立つ者を守る力になるというのなら――それを、『希望』と呼んでも許される気がして、彼もまた笑うのだった。