ペア～白色のアイリス／エクリプス～

：ブリンガー：ゼデキア　白のアイリス
：絶望「救いはない」　願い「取り戻す（故人）」

：２メートル近い体格と戦闘技術を買われ、現在は「統治警察」で働いています。
：元々は戦乱続く異世界からやってきた隣人（ネイバー）でしたが、この世界である人と出会い、ステラナイツとして覚醒しました。

：戦場のことしか知らなかったゼデキアにとって、彼は人生の師であり恩人でした。
：しかし、彼はロアテラとの戦いの途中で亡き人となり、ゼデキアは絶望の底に沈みます。

：そのときに現れたのが、現在のシースである陽さんでした。

：彼女もまた「パートナーを失ったステラナイト」です。
ゼデキアは似た境遇である陽さんに仲間意識を抱き、彼女と共に再びステラナイツとして戦う道を選びました。

：そんなゼデキアですが、普段は冷静かつ合理的に振舞っているものの、本性は血に飢えた「狂戦士」、生粋の戦闘狂だ！

：彼は戦場に執りつかれた醜い自分を厭い、心の中には大きな葛藤と失意、そして諦念を抱えています。その矛盾は彼を“歪ませて”いきます。

：それでもなお、戦い続ける理由は。
ゼデキアは答えを求め、此度も戦場に向かいます。

「戦いに終わりなどない。人は争い、世には滅びが跋扈する」

「故に俺は奪い、蹂躙し、戦い続ける。それだけが、俺に残された道――」

：シース：羽鳥陽（はとり・よう）
：希望「右手を伸ばす」　願い「取り戻す（故人）」

：SoAに通う楽観主義の女子高校生、基幹世界人です。

：過去にステラナイト（ブリンガー）として戦っていましたが、バトルとは関係ない事故でパートナーを失いました。現在は失ったパートナーを取り戻すために戦っています。

：ゼデキアさんとは互いの元パートナーのよく通っていたカフェで出会いました。新しいパートナーはよくみるとなかなか顔がいいので連れ回して自慢したいと思っています。

：願いは願いで大事ですが、あまり暗くならずに割と現状を楽しんでおります。

「なくしたもの、一緒に取り戻してみない？」

「あっやっと来た。お兄さん遅いよー。あたし一杯もう飲んじゃったからもう一杯はおごりね」 

：――基幹世界。とある、平穏なカフェ。

：ここは彼、ゼデキアにとっては、思い出深く大切な場所だ。

：そう、『大切な場所』になった。

 「――あそこか」 

：視線の先には、一人で席に座る女性の後ろ姿。

：彼はその背に近づき、軽く咳払いして告げる。

「陽、すまない。遅くなった」

「遅い～～」

「その、仕事の都合がな……」なんて少し決まり悪そうにしつつも、前の席に腰をおろす。

「お仕事お疲れ様。飲み物いるでしょ？ あたしもう一杯飲んじゃったからおごってよね」悪い顔で。

：ふぅ、と軽くため息をつくも頷く。

「好きなものを」メニュー表を差し出し。

「さっすがお兄さん、話が早いねぇ。どれにしよっかな……」

：などと選んだドリンクを飲んだりしつつ、少し落ち着いたところで。

「そういえばお兄さん、今日は見せたい物があるんだけど」

「ん……なんだ？」少し意外そうに。

「あのね……」

：陽がですね、服をがばっとめくると腹部には斜めに大きな傷跡が……

「これよ、これ！ どうしてくれるのよ？？」 

「！！！」表情が一瞬で硬くなります。

「陽、ここでは……！！」人目を気にし、彼女の手をとっさに下げさせる。 

「これじゃお嫁に行けないよ……しくしく……」

「…………」ゼデキアの表情は深刻そのものです。

：――前回のステラバトル。

：彼女に無理をさせてしまった。その結果、彼女の体に“大きな傷跡”を残すことになってしまった。

「……すまない。俺の……せいだな」かすれそうな声で。

 ：顔を覆う手の指の間から、ゼデキアさんの方をチラッチラッと。

 ：ゼデキアは俯き気味で、そんな陽さんの様子には気づいていません。

「……その。なにか、俺にできる償いがあれば……――」 

：あまりに深刻そうなのでちょっとかわいそうになって。

「悪かった。悪かったわ。そんなに怒ってないわよ。気にしてないって言ったらウソだけど……あたしだって覚悟の上でやってるんだもん」 

「……そうか。そう言ってもらえると、救われる」少し無理をして笑います。本性は戦闘狂であれど、平時の彼は責任感が強い、真面目な青年です。

「そうそう、それでいいよ。眉間にしわ寄せてると老けて見えるよ？」

「気にしてないとは言ったけど……甘い物のひとつくらいおごってくれてもバチはあたらないと思わない？ どうかな？」

「ああ、もちろん」快く応えたあと、

「だが、それでも……“その傷”は俺の責任だ。君は気にしないと言ってくれるが、俺としてはやはり……気にする」共にかつての相棒を取り戻すため手を組んだ仲であれど、

「今の君はもう……“俺の唯一人のシース”だから」守れるなら、守りたい。
：そう、彼女と過ごす、こんな平穏な日常を。

：それはちょっとドキっとしそう。

：そんな様子にも気づいていない様子です。

：でしょうね……。

「そ、それより今度はエクリプス４人と戦うんでしょ？ あたしの事気にして全力出せない、なんてのはやめてよね」

：などと話題をそらしてみる。 

：陽さんが口に出した『エクリプス』という言葉にハッとする。

「そうだな……次の相手も手強いだろう。前回のようなことにはしたくないが、もし、万が一…――」真剣になにかを言いあぐねていますが、

「……いや。君がいてくれるなら、きっと大丈夫だ。今回も無事に勝てるさ」ふ…と微笑み。

「（顔がいいって自覚がないんだよなぁこの男は……）」

「あ、あたりまえよ、あたしがついてるんだから」 

「ああ。そうだ。俺たちなら勝てる。いつかきっと、俺たちの願いも……」

：言い聞かせるようにそう言って。

「そうだね、きっと叶うよね……」

「…………」過去の記憶に想いを馳せ、失くしたものを噛みしめ、二人して沈黙し。　

：しばらくして、

「……おっと。“甘いもの”……だったな」陽さんの要求を思い出す。　

「今度はどんなのがいいんだ？」と質問します。

「そうねぇ……チョコレート系がいいかなぁ」何かを察した感じで。

「チョコレート系かぁ……ふむ……」腕組みして、少し考えます。

「“先生”のレシピに、チョコレート菓子のアレンジがあったような気がする」　

「……よし、今回はそれにしよう。帰ったらレシピを見直さないとな。明日にはできるはずだから……」　

（うちに来ても良いぞ、という目線ですね！） 

「やった～！ 言ってみるもんだな、うん」

「君のおかげで俺の腕も磨かれていくよ。まったく……」

：何度もダメ出しを食らいましたの顔。でも悪い気はしていません。

：へへ、と笑っております。

：ふふ、といたずらっぽく笑い返します。

「まあ、これの一種の訓練だ」なんて。

「なに、私に食べさせるのは本番じゃないってこと？」とむくれてみます。

「……実戦はやっぱり先生？」 

「？ なにをそんなに怒っているんだ……？」少し戸惑いつつも。　

「自分で考えなさい！」

「……？？？」余計に困惑します（ダメな男ですみません）

：そんなことを言い合いながら、今日も彼らの時間は過ぎていく。

：――“歪み”なんて、わかるはずもない。

：だって、いまや彼女と過ごす時間は……こんなにも『普通』で、『当たり前』なのに。 

：――統治警察の寮。ある一室。

「……よし。こんなものか」台所に立つゼデキアは、やや緊張した面持ちで呟いた。

：その直後、インターホンが鳴る。

：彼は急いで玄関の扉を開けた。

「来たよー。お茶も持ってきてみた」

「ああ、どうぞ。お茶か。ありがとう」少しそわそわした様子でパートナーを部屋に招きいれた。　

：ゼデキアの私室は驚くほど簡素だが。彼女が訪れるようになってから、ちょこっとぬいぐるみなどが置かれるようになった。 

：陽が勝手に持ち込んでいるからだ。

：そうです。 

「あたし、紅茶詳しくないから可愛いやつで選んできちゃったんだけど……。お菓子に合うかな」

「ん、ああ、大丈夫だと思う」と答えて、彼は台所の方から、一皿の焼き菓子を持ってきて、
「……ガトーショコラ、というらしい」それだけ伝えて彼女の反応を見る。

「おお～っ」

「これはこれは……お兄さんまた腕あげたんじゃない？」

：ケーキを見てそわそわしています。

「そうだといいんだが。前回、一人で挑戦したときはひどい出来だったが……今回は、まあ、それなりだとは、思う」自信はなさそうです。

「お茶用意するね」

：勝手知ったる台所。戸棚からティーセットを出してお茶を用意し始める。

：ではお茶の用意もできたところで。

「……どうぞ」と一言（緊張した顔）

「では」と真剣な表情になり……、

「いただきまーす」

：一口食べて、しばし沈黙する。

「美味し～い！」

「――そうか」ほっと一息。

：陽が美味しそうに食べてくれている様子を見て、ゼデキアも自身の分を一口食べ、頷く。

「うん。まあまあ……だな」

「あれ？お兄さんは不満げですねぇ、今回のはすごい良いと思うけどなぁ」

「不満、ではないんだが。やはり……“先生”が作ってくれていたものと比べると、自分のはどうしても、な……」ぽつりとこぼす。 

「先生、ねぇ」

：ケーキとお茶を楽しんでいるところで携帯の通知音が鳴る。友人からのメッセージだった。

『明日の夜、流星群が見れるらしいよ！学校の屋上に集まらない？』

：なんてことないそのメッセージは、不思議なくらいに陽を苛立たせた。その頃こっちは必死に戦っているというのに、まったく……。

：携帯を閉じて、少し不機嫌な様子でケーキをつつく。

「ねぇ、気になってたんだけどさ、先生って女の人なの？」

「……ん？」意外な質問。なんだかんだ、互いのかつてのパートナーについてはほとんど話したことはないのだ。

「いや……男性だったが。俺と同じ隣人で……戦場の経験もある人だった。多少、俺と似た境遇でもあったな」あえて感情は出さないように。

「ふーん、そうなんだ」

：そういうことじゃない。女じゃなかったら何なのだ。

：先生が彼の一番大事な人であることに違いはない。自分がそこに立つことはできないのだろう……。

「このレシピ、先生のなんだよね？」

「ああ。料理は、先生から教えてもらった」そんな陽の気持ちには気づくこともなく。

「いつも、教えてもらった料理作ってるんだ？」

：ほんの少し寂しそうな顔をして。

「そうなるな……。レシピが書いてあるノートは、先生の遺品でもあるから……いつもそれを見ながら、練習している」

「ふーん……なんか先生と暮らしてるみたいね」

「あたしがこの家に来るのってお邪魔かな」

「…『先生と暮らしている』……？」一瞬、陽の発言の意味が理解できず、そのまま言葉を返す。

「――いや。そんなことは……」

：ないはずだ、と。心の中で。

「わかってるよ。あたしたちは、願いをかなえるためだけの――」

「ごめんね、お兄さん」

：席を立って、部屋を出ていく。

「陽……」なぜ彼女が席を立ったのか、あんな表情をしていたのか……ゼデキアには理解できない。

：呆然と彼女の名前を呼ぶが、その背を追うことはできなかった。

：バタン、と玄関のドアが閉じる。

「あなたの気持ちがここになかったとしても、あたしは――」

：玄関の閉じる音を聞いて、ゼデキアはフォークをぽろりと手から落とす。

：そこでようやく立ち上がって。玄関に向かい扉を開ける。

：しかし、周囲を見回しても、もう陽の姿はない。

「――陽。俺は」

：続く言葉は夕方の冷たい風に攫われて、消えていった。

「俺の、願いは…――」