ペア~琥珀色のコスモス~


【キャラクター紹介】

聖・セラミカ

:ブリンガー『聖(ひじり)・ツァドキエル・セラミカ』。長くなるのでミドルネームはいつも省略して、聖・セラミカと名乗っています。
:救世主、願い:きらめく世界。聖アージェティア学園高等部に通う16歳の少女です。

:聖は正義と慈愛の人で、困った者があれば躊躇なく手を差し伸べ、差し伸べた手を叩き落とされたらもう片方の手を差し伸べる。そんな人間です。

:人が救われない世界は嫌だったので、いつでもどこでも誰にでも手を差し伸べ続けて来ました。
:しかし、一向に救われない人は減ってはいないため、「救われないすべての人を救うのに、この世界は向いていないかもしれない」と感じ、世界への不満を持つようになりました。

:結果としてもっときらめく世界を――全ての人が救われる、救いを受け入れてくれるような――を求めてシースの彼女と共に戦いに身を投じることになりました。

:……と書くと理想的な聖女のように見えるのですが、その性格は純粋にして過激だったりします。
:この手で全ての人を救い平和な世界を作るのが夢なので、救いを拒むことはあまり許してくれません。
:絶対に救いたいのです。絶対にだ。君が嫌がっても絶対に救う。いいですね。

:なお、自分を悪く思う人がいることは知っていたりします。でも、彼らをも救いたいと思っています。

「お困りですか? わたくしにお手伝いできることはありますか?」

「……どうしました、なぜ怯えた顔をしているのですか。やはりお困りなのでしょう? わたくしの救いが必要なのではありませんか?」 


リーゼロッテ

:シース:リーゼロッテ
:絶望「救いはない」 願い「きらめく世界」

:人形劇世界出身の隣人、聖アージェティア学園に通う17歳・女性です。

:精巧に作られた生ける球体関節人形で、一見人間のように見えますが表情の変化や動作にぎこちないところがあり、精巧さゆえに奇妙に見えてしまうこともあるかもしれません。

:基幹世界に流れ着いたばかりの頃に人々の奇異の目で見られたことからやや臆病になり、髪やベール、長袖ロングスカートなどでなるべく顔や素肌を晒さないようにしています。

:突然ひとりぼっちとなり、絶望の日々を送っていたのですが、聖と出逢い、彼女の存在に救いを感じて心酔するようになりました。今や、シスターめいた服装も相まってまるっきり信者の様相です。

:基本的には明るく人当たりの良い性格なのですが、パートナーである聖に関してだけは過激派です。

「総て、セラミカ様の仰せのままに」

 

 



【第一章】

聖・セラミカ

:夕暮れの横たわる温室。

:聖アージェティア学園にはたくさんの温室があるが、ここは人が立ち入ることが少ない穴場で、二人の秘密の場所になっている。

:二人は時折ここで花に囲まれながら、秘密のお茶会をひっそりと開いている。
:温室の中央にあるのはいつからか置かれているガーデンテーブル。今日もいつものようにお茶会が開かれていた。

「ねえリーゼロッテ、いつも言っていると思うけれど…あなたは給仕じゃないのだから、席についても構わないのですよ」
:と彼女のいれてくれたお茶を置いて、傍らに立つリーゼロッテに席を勧める。


リーゼロッテ

「いいえ、これは私がしたくてしていることですので。セラミカ様にお仕えするのも、私の楽しみなのです。……それとも、御迷惑でしたでしょうか」

:表情は変わらないが、少し気落ちした声音で。 


聖・セラミカ

「わたくしがあなたを迷惑にしたことが今まで一度でもあって?」


リーゼロッテ

「ございません」きっぱりと。


聖・セラミカ

「けれど、いつも片方の椅子が空いているのは少し寂しく感じます。それに、今日は色々話すべきこともあるでしょう? 今日くらいは腰を落ち着けてはどうです?」


リーゼロッテ

「申し訳ありません、セラミカ様の御心を疑うだなんて……このリーゼロッテ、恩知らずにも程が……いえ、」かぶりを振って、

「セラミカ様のおっしゃることはいつもごもっともです。それでは、お言葉に甘えて失礼いたします。……話すべきことというのは、告知のことですね」一礼してから椅子に腰を下ろして、温室の花に目を遣る。 


聖・セラミカ

「ありがとう」隣の席に腰を下ろすリーゼロッテに微笑みます。


リーゼロッテ

……いえ」聖の微笑みに釣られるように、微笑む――ことは叶わない代わりに、目を細める。


聖・セラミカ

「御覧なさいリーゼロッテ、今もこの温室には様々な花が咲き乱れていますね。アネモネ、ヒガンバナ、シロツメクサのような素朴なものもあります……それにコスモスも」

「わたくし達は、これらを守らねばなりません。この花たちを愛する人々を、世界を」 


リーゼロッテ

「はい、セラミカ様のおっしゃる通りです。すべてはセラミカ様の手により救われるべきなのです。……ですが」何か言おうとして言葉を切り、黙り込む。


聖・セラミカ

……リーゼロッテ?」ティーカップを置いて、彼女の瞳を見つめる。話の続きを促すように。


リーゼロッテ

……。……前回のステラバトルで、私は知りました。この戦いは、想像していたよりもずっと、激しいものであると」

「セラミカ様に、このようなことを申し上げるのは御無礼かと存じます。ですが、……私は、心配なのです。いえ。セラミカ様が傷つくことが、おそろしい」


聖・セラミカ

「わたくしは例え傷ついても耐えられます。だから、心配には及ばない………と言っても、あなたは納得してくれないのでしょうね」


リーゼロッテ

……申し訳ありません。……………私が、戦えたらいいのに」卓上に置いた手が震える。


聖・セラミカ

「リーゼロッテ」震える手に手を重ねて「あなたもわたくしと共に戦ってくれているでしょう? 何もその足で戦場に立つことだけが戦うことではありません」

「あなたがいてくれるから、わたくしは世界を救うことができる。あなたはわたくしの手となり足となり、わたくしを勝利へと導いてくれる―――これがあなたの戦いでなくて何でしょう?」


リーゼロッテ

「セラミカ様……」触れる手に、震えは止まる。感極まったような、短い声が漏れた。

「はい。申し訳、……いいえ。ありがとうございます。
 これは、セラミカ様の戦いであり、私の戦い、なのですね。……私は、シースとしての自覚が足りていませんでした」

「……次なる戦いも、貴女と共に、戦地へ向かうことを。改めて誓います」


聖・セラミカ

「ありがとう、リーゼロッテ。とても心強く感じます」

「今回の救済すべき敵はエクリプス――元ステラナイトの方のようです。彼らを救うためにも気を引き締めなくてはなりません」


リーゼロッテ

「敵である彼らをも、お救いになるおつもりなのですね。さすがはセラミカ様です」普段の調子を取り戻す。


聖・セラミカ

「もちろん、救済せねばなりません。前回戦ったエンブレイスのように……」
「おそらく彼らは願いを求めるあまり闇に落ちてしまったのでしょう……ですが、わたくしたちならば彼らをも救えるはずです。そうですね」


リーゼロッテ

「はい。彼らに、教えて差し上げましょう。救いはここにあるのだと。セラミカ様こそ救いなのだと」


聖・セラミカ

「ええ。その意気です、リーゼロッテ。二人で彼らを救って差し上げるのです」


リーゼロッテ

「そのためにも、今は英気を養いましょう。……私も、セラミカ様と一緒にこうしてお茶会をしてみたかったのです」自ら聖の手にそっと触れる。


聖・セラミカ

「ふふふ……それでは今度からは毎回、共に座ってくださいね」

 

:こうして二人のお茶会の時は過ぎてゆく。
:咲き誇る花々に、愛すべき平凡な時間に、まだ見ぬエクリプスたちを『絶対に救う』――と誓いながら。

 

 



【第二章】

聖・セラミカ

:聖アージェティア学園。
:ここで最近まことしやかに流れる噂話があった。
:『アージェティアの聖女』――困った顔をしている生徒に忍び寄る救済の聖女が存在するのだと。

:最近では聖職者姿の従者まで連れ出して、いよいよカルト宗教めいてきたとか、近づくと従者にされてしまうとか、実際マジ天使だからシスター連れてても何もおかしくはないとか、様々な噂が立っているとか、いないとか。

:そんな聖アージェティア学園の放課後――誰もいないはずの小さなプラネタリウムで、冴えない顔をして座っている男子生徒の姿があった。
:何やらため息をついたりして、いかにも悩んでいますといった調子だ。

:そんな彼の背後にそっと忍び寄る、二つの影があった――。

「もし、そこのお方。何かお困りのようですね? わたくしの助けが必要ではありませんか?」


リーゼロッテ

「もう大丈夫ですよ。セラミカ様に身を委ねれば、すべて救われます」


名もなき男子学生

「え…?」と彼は不審そうに振り返り――。

(うわっ……“アージェティアの聖女”だ……!?)

:大慌てて首をぶんぶんと横に振る。

「いいいいいえ!!なにも困ってませんよ……!?


聖・セラミカ

:聖は、じっ……と彼の眼を見る。

:彼は明らかに――困っている。


名もなき男子学生

「いやその、」たじたじしながら、

「ほんっっっとうに困ってないので…!!!


聖・セラミカ

「心配はいりませんよ。どうぞ、わたくしたちに打ち明けてごらんなさい。悩みがあるのでしょう? お困りなのでしょう? 遠慮なさらず……どうか救済させてください」


リーゼロッテ

「セラミカ様の眩さに、委縮してしまったのかしら。
 ――わかります。
 けれど、セラミカ様はどんな方であれ、お話を聞いてくださいます。さあ、どうぞ、御遠慮なく」

:背後から離れ、じりじりと逃げ道を塞ぐように迫ります。


名もなき男子学生

(これはアカン……アカンやつだ……もはや宗教だ…!?)怯え。

:実際彼は、確かに『恋人と喧嘩して困っていた』のだけど。

(救済てなに……? 怖ッ! この人たちに関わったらアカンことになる……!)と本能が告げていた。

:ので、


聖・セラミカ

「あ――」


名もなき男子学生

「本当に大丈夫です!! マジ勘弁してください!! 流れ星にお願いするから聖女は間に合ってます~~!!」

:半泣きの様相で、二人の間をかい潜り脱兎のごとく逃走した!!


リーゼロッテ

「あっ……!」

:逃げ道を塞ごうとはしていた。しかし、人形の身では、そう機敏に動くことは叶わない

「申し訳ありません、セラミカ様。取り逃がして――いえ、私の誠意のお伝えの仕方が足りませんでした」

:そう謝罪した後、なんとなくそわそわしている。


聖・セラミカ

………ありがとう、リーゼロッテ。仕方がありません、わたくしたちの活動は未だ受け入れられ難いものなのでしょう


リーゼロッテ

「悲しいことです」

:確かに、先程の彼のように逃げられてしまうことは少なくはない。しかし、己を含め、彼女に救われている人物だっている。

:だからこそ、受け入れられないことを残念がりはしても、深く落ち込むことはなかった


聖・セラミカ

「しかし、流れ星とは……だいぶロマンチックな方だったようですね。わたくしたちの手で救済できればよかったのですが。
 ……あら?」

「どうしました、リーゼロッテ? 何か気になることでも」普段は見せないそわそわした様子に、聖はそう尋ねた。


リーゼロッテ

「いえ、ですが、その、セラミカ様よりも流れ星に頼るだなんて……」少し俯き、歯切れ悪く、言葉を重ねていたが――意を決したように顔を上げる。

「……はい。セラミカ様。明日、流星群があることは御存じ、でしょうか」


聖・セラミカ

「ええ、聞いた話によれば、ちょうど戦いに赴く夜に……。おそらく彼もそのたくさんの流れ星に祈りをささげるつもりだったのでしょうけれど……」

:リーゼロッテの言わんとしていることがいまいち掴めないといったように


リーゼロッテ

「はい、おっしゃる通り――明日はステラバトルの当日であるのは理解しております。それがどんなに大切であるかも。
 ですが、その……可能であれば、でよいのですが。
 セラミカ様と御一緒に、流れ星を見られたら、と思いまして」

:そこまで言って、一転、手で顔を覆って早口になる。別に、顔が赤くなることなどはないのだが。

「いえ、星など、それこそこのプラネタリウムでも見られることはわかっております。ですので、ええ、そうです。やはり、今のはなかったことにしてくださいませ


聖・セラミカ

………まあ!」リーゼロッテの言葉を聞いて、自然と笑顔になる聖。

:普段は自分の欲求を主張することが少ない彼女が。
:まるで本当に聖のメイドか何かのようにふるまうことばかりを望んでいた彼女が――

:流星群を見たいだなんて!

:なんて可愛い要求だろうか。なんて慎ましい望みだろうか!

「ええ……ええもちろんです、リーゼロッテ! そのくらいのことでしたら喜んで!」


リーゼロッテ

:暫し、顔を覆ったままでいた。けれど、彼女の言葉を聞いて、ぱっと手を離す。

「……よろしいのですか?」なんと応えたものか迷う間の後、ようやっと、一言。


聖・セラミカ

「何もいけないことなどありません。だって、わたくしは今……とても嬉しかったのです」

「とはいえ、流星群が訪れるのは戦いの夜。ゆっくりできるのは戦いを終えた後になってしまうでしょうが……」

「それでもよければ。……喜んで」
:わたくしでよければ――という言葉を飲み込んで、微笑む。

:リーゼロッテには、友達と言えるような友達がいない。
:元々球体関節人形ということもあって異端視されることはあったろうが、もしかしたら――今彼女が孤独なのは、自分が隣にいるからかもしれない――そう思わないわけではなかった。

:本人に言ったことは一度もないが、こんな素敵な夜に共に過ごすのが自分でよいのかと…そう、心配しているところが少しあるのかもしれない。


リーゼロッテ

「嬉しい……?」
:聖の言葉の意味を図りかねて、同じ言葉を口にする。
:自分の価値を信じないリーゼロッテには、彼女が喜ぶ理由を理解できない。
:けれど、それでも、聖が喜んでくれるのであれば、それはリーゼロッテにとっても喜びに違いなかった。

:聖の言葉を噛み締めるように、暫し目を閉じる。

「ありがとうございます、セラミカ様。
 きっと、明日は忘れられない日になるでしょう。
 セラミカ様と出逢ってからの日々、一日たりとも忘れたことなどありませんけれど」

「ですが、どうか誤解なさらないでください。
 ……流れ星に願いたいことなど、ないのです。
 遠き星よりも、私にとっては、今ここにいるセラミカ様こそが救いなのですから。

 流星群というものを見るのは初めてで――ただ、セラミカ様と一緒に見たいと、そう思っただけなのです」


聖・セラミカ

「こちらこそありがとう、リーゼロッテ。あなたが特別な夜にわたくしと共にあることを望んでくれたことは、わたくしの誇りです」


リーゼロッテ

……もったいないお言葉です。貴女の誇りとなれることが、リーゼロッテの誇りです


聖・セラミカ

「ええ……そうね、流れ星にする願い事がないならば、星の騎士として星に誓いを立てましょう。たとえ時間がかかったとしても、必ず夢を叶えると」

「わたくしたちの夢を叶えると。全ての人々を一人残らず救ってみせる、その世界を必ず勝ち取ると。誓いを立てましょう」

(リーゼロッテ、あなたは、きっと私と出会って救われた気でいるのでしょう。でも、わたくしはあなたを『救済できた』とは――まだ思っていません)


リーゼロッテ

「さすが、セラミカ様。とても良いお考えです。そうですね、誓いましょう。セラミカ様の――いえ、セラミカ様と、……私の夢を、共に、叶えると


聖・セラミカ

(きらめく世界をこの目で見たとき、わたくしが最初に救いたいのはあなたです。リーゼロッテ)

「そのために、必ず勝利しましょうね


リーゼロッテ

……はい。まずは、エクリプス――堕ちた彼らに勝利し、救いましょう。
 そして、共に流星群を見ましょう。

 美しき夜は、戦いのためなどではなく、大切に想う人と過ごすためにあるべきものなのですから


聖・セラミカ

:パートナーの言葉に、微笑んで頷く。

「その通りです。……リーゼロッテ、あの頃よりもずっと……頼もしくなりましたね


リーゼロッテ

「総て、セラミカ様のおかげです。……ただ生きているだけだった私を、活かしてくださったのは貴女なのですから」

「……だから私は、セラミカ様に恥じない生き方をしたいと思うのです」

:聖の事は、出逢ったその時から信じている。
:けれど、己の事は信じられていない。
:故に。彼女と共に並び立つのが己であることに、未だ迷いはある。
:けれど。
:この迷いは、彼女の誇りを穢すことになるのだろう。
:ならば今はそれを秘めておこう。

:いつか、自信をもって、彼女の隣に在るのは自分だと言えるようになるまで。


聖・セラミカ

「ありがとう。あなたの気持ちが、とても心強く感じます」
:――きっと、あなたもまた、わたくしの救いなのだから。

:それは、言わずにおいた。
:きっと今はまだ、彼女にとって無意味な言葉だったから。

「…さあ、リーゼロッテ。明日の戦いも流星群も気になりますが……まだまだ放課後は長いのです。救いを求める者を探し出し、救済しに行かねばなりません!」

 

:聖アージェティア学園。
:ここでは最近まことしやかに流れる噂話があった。
:『アージェティアの聖女』――困った顔をしている生徒に忍び寄る救済の聖女が存在するのだと。

:噂の内容は様々だが、しかし、彼女たちの誓いは固い。

:あらゆる全てを、敵を、パートナーを、自分を。いつか必ず、全て救って見せるのだ、と。