エクサル : ――目を開けば、再び森の中に居た。
戦場にいるときはじっくり見る余裕など無かったが、すっかりと夜の帳の下りた空は、今宵、星の光に包まれていた。瞬きの度、煌めく星々が空に軌跡を描いて落ちていく。
エクサル : そのような光景を目の前にして。
エクサルは、疲労感の籠った息を長く吐いて前髪を掻き上げた。
エクサル : 「……まずは一つ、か」
セレニティス : ふわり、と、宙に漂っていた少女が、エクサルの側に降り立つ。
セレニティス : 「おめでとう、エクサル!」心からの笑顔。彼女もまた、見えない形ではあるが、彼と共に今宵の戦場を駆け抜けた。
エクサル : 「……ああ。想像していたよりは、思うように立ち回れた。……お前の助力あってのことだろう」
エクサル : やや回りくどい労いの台詞。普段通り、表情は変わらない。ただ、声音から硬さが抜けているのは疲労のせいかもしれない。
セレニティス : 「ふふ!戦ってるあなた、すごくかっこよかったわ」なんて臆面もなく言う。
エクサル : 「お前には見えなかったのではないのか。それに、恰好良さと強さに関連性はない。求めるべきは強さだ」
セレニティス : 「ああ、でもきっと疲れているはずよね?だったら…」そう言って、ワンピースの懐に手を入れたかと思えば
セレニティス : 「ほら、これ!持ってきたの!」と、小さな瓶――数日前、彼からもらった金平糖が詰められた小瓶を目の前に突き出す。
エクサル : 懐に手を入れる様子を、眺める。そこから出て来たものを目にして、二、三度と瞬いた。「……飾っておくんじゃなかったのか」
セレニティス : 「そうね、最初は飾ってたわ。でも、今日のステラバトルが終わったら、星を見ながらエクサルと一緒に食べようと思いついて」もう食べる前提で蓋を開けて、彼に手を差し出すように「ん?」と首をかしげる。
エクサル : 「私に? ……お前に与えたものなのだから、……。ならば、私に与えるのもまた自由か」言葉を繋ぐことを諦めた。細めた目でセレニティスを見た後、手を差し出す。
セレニティス : 「あれ?嫌がるかと思ったのに」一瞬意外そうな顔をしますが、
セレニティス : 「でも、そうよね。今夜は特別な日だから!エクサルも、この日を一緒に思い出に刻みましょう?」やはり、愛おしそうに笑いかけるのだった。
エクサル : 「問答の時間が無駄だと判断した」
セレニティス : 「素直じゃない~~~」
エクサル : 「世界を終わらせようという者が、思い出を刻むというのも可笑しい話だが。……今日の私は大概可笑しかった。一つくらい、増やしても良いだろう」
エクサル : セレニティスの突っ込みは無視して、地面に腰を下ろした。疲労の所為だろう。立っているのさえ、億劫だったから。開けてはいても手入れはされていない森の広場、伸びた草が衣服越しに肌を撫でる感触は慣れない。けれど今は、それもどうでもよかった。
エクサル : 天を仰ぐ。「……こうして星を眺めるのは久しぶりだな」
セレニティス : エクサルの様子を見て、セレニティスもころりと寝転びます。
セレニティス : 「…本当に、素直じゃないんだから。…優しいくせに」整った横顔を見ながら小さく呟く。
その後、つまんだ金平糖をまじまじと見つめ…
セレニティス : ぱくり、と食べてしまう。
セレニティス : 「美味しい!」きゃっきゃとはしゃいだ声を上げ、エクサルにも食べるようにとうながす。
エクサル : 「そう感じるのは、お前くらいなものだろう」優しい、の一言は否定する。
エクサル : 促されて、金平糖を口内に放り込む。甘い。
菓子も、何時振りに食べたろうか。セレニティスに贈りはしても、己が口にする事などなかった。栄養も取れない嗜好食品に意味はないから。
エクサル : やけに甘ったるく感じられて、思わず、噛み砕いた。音が鳴る。
エクサル : 「……甘い」感想は一言。
セレニティス : 「そうね。…とても甘いわ。とても甘くて…幸せな気分」流れ落ちる星たちを見上げながら。
彼女の言葉がなにを指しているのかは、定かではなかった、けれど。
エクサル : 膝を立て、座り込んだ姿勢のまま、暫くそうしていた。
沈黙が流れる。
別に、流れる星々を見ても、願うことがあるわけではないけれど。
エクサル : 「セレニティス」
口内の甘さも消えた頃、傍らの彼女へと視線を落として、その名を呼んだ。
エクサル : 「伝えておくことがある」
セレニティス : 「――はい」素直な、期待するような声音。彼女もまた身を起こす。
エクサル : 「畏まることでもない。お前に一つ偽りを教えていた。ただの、その訂正だ」
エクサル : 「エクサル、は本当の名前ではない。
ルキウス・エリクシア。
それが、俺の名だ」
エクサル : 「……パートナーであるお前には、伝えておくべきだと思った。とはいえ、その名は今は隠している。外では、呼ぶな」
エクサル : そう言って、また、視線を空へと向けた。
セレニティス : 「ルキウス・エリクシア…」音の一つ一つを、そっと触れて確かめるように、口にする。
セレニティス : 「――だからなのね。あなたが、わたしの“光”になってくれたのは」
セレニティス : 「それなら、ルキウス。あなたにも教えておきたいことがあるわ」少女は青年の耳元に顔を寄せて囁く。
セレニティス : 「わたしはね、昔“セレナ”と呼ばれていたの。それが、わたしにとっての、大切な響き。かつての世界とあなたを繋ぐ、一つの希望」
エクサル : 「光、か。……そういう意味を持つ、と言っていたな」誰が、とは言わない。もう、いない人物の話だ。
エクサル : 寄せられる顔から、離れようとすることはなかった。静かな森の中、きっとそうする必要などはないのだろうけれど。内緒話のように、大事そうに伝えようとする彼女の言の葉の一つ一つを拾う。
エクサル : 「セレナ。……そうか。憶えておこう」
エクサル : 手を伸ばして、彼女の頭に触れる。撫でる――ような動きを数瞬見せ、止まって。その手は落ちた。
エクサル : 「……今日は疲れているらしい。話は終わりだ。後は、好きなだけ星を見ていろ」
セレニティス : 彼から触れられたことに、驚くそぶりも、怯えるそぶりもなかった。
そこにはただ、優しさと、無限の愛と――
セレニティス : 星のきらめきにも似た幸福が、確かにあった。
-fin-
絶望のブリンガー:エクサル
希望のシース:セレニティス
黒ペア、おつかれさまでした💐