ゼデキア : 夜も深いフラワーガーデン。
そこに、二人は“戻って”きた。
ゼデキア : 「――」耐え難い疲労に襲われ、足元がふらつく。
だが、しっかりと力を入れて、踏みとどまる。
ゼデキア : そんなゼデキアの隣に、彼女はいた。
――ずっと、いてくれた。
羽鳥陽 : 「あーあ、負けちゃったね」
羽鳥陽 : 激しい戦いの後とは思えない、呑気な声だった。
ゼデキア : 「…そう、だな」そう答えるのが精一杯だった。
羽鳥陽 : 「いや~あの子たち強かったね。百戦錬磨、一騎当千のゼデキアさんがあんなにやられるなんてさ。これは相手が悪かったかな」
ゼデキア : 「――すまない」いつも謝ってばかりだと気づいたが、それでも言わずにはいられない。
ゼデキア : 「願いを叶えてやれなくて。君を傷つけてしまって。俺は…弱い」
『弱い』と言う言葉を噛み締めるように。
羽鳥陽 : 「お疲れさま」
羽鳥陽 : そっと、抱きしめる。
羽鳥陽 : たぶん彼はずっと戦ってきたのだろう。
羽鳥陽 : 今だけは、戦士に休息を。
ゼデキア : 「……君も」引き寄せられた腕に抗うことも、その意志もなかった。
ゼデキア : 「おつかれ。…本当に…ここまで…長い戦いだった」その声は掠れている。
ゼデキア : 今宵の相手――エクリプスではなく、星の騎士――彼らは強かった。
ゼデキア : 赤く迸る情熱が。
そよぐ風のような太刀筋が。
聖女のごとき救済の意志が。
全てを作り変えんとする鋭い瞳が。
ゼデキア : その重みが、想いが、刃となり、輝きとなり、花びらとなり、ゼデキアの戦場を終わらせた。
ゼデキア : ――そう、終わったはずなのに。
ゼデキア : 「俺はこれまで…“自分のため”だけに戦っていた。正直…世界なんてどうでも良かった。俺にとって世界は“戦場”でしかないから」
ゼデキア : だというのに。
君がこの世界にいる。
自分の隣で、自分と一緒に戦ってくれた君が。
ゼデキア : 君がいるのに、この世界が滅びてもいいだなんて思えるわけがない。
今度は自分のためではなく、彼女の、世界の為に。
ゼデキア : 「――陽」
羽鳥陽 : 「ん」
ゼデキア : 「卑怯な大人ですまない」
ゼデキア : そう言って笑う。きっとひどい顔だ。
ともすれば泣いてしまいそうに見えるような。
ゼデキア : 「俺にはまだ…君が必要だ」
ゼデキア : 「俺と一緒に…戦って欲しい」
羽鳥陽 : 「なーに、改まって」
ゼデキア : 彼女の柔らかい声音が、今はただ心地良い。
ゼデキア : 「頼む…俺をおいていかないでくれ。独りにしないでくれ」
ゼデキア : 「“俺だけでは戦えない”んだ」
ゼデキア : それは星の騎士だからとか、そういう理由ではなく。
ゼデキア : 「君がいてくれるから。俺は…世界に“希望”を見出せる。君がいない世界は、きっと絶望で真っ暗だ」
ゼデキア : もはやすがるような声音で、そう告げた。
羽鳥陽 : 「言ったでしょ。終わりが来るまで一緒に戦うって」
羽鳥陽 : 「私たちはまだ終わってなんかない」
羽鳥陽 : 「願いが潰えたって、私たちはまだ終わりじゃない」
ゼデキア : 「――君は本当に、強いな。俺より、よっぽど…」
ゼデキア : 彼女の肩口に顔をうずめたまま。
羽鳥陽 : 「そんなことない。独りじゃ強くいられないよ」
ゼデキア : 「…そうか。君は、そう言ってくれるんだな」深く息をつくと同時に、引き寄せられていた上体を離し、彼女と正面から向き合う。
ゼデキア : 「ならば。せめて俺の戦いが、本当に終わるまでは。一緒に…戦おう」
ゼデキア : 「今度は――この世界のために」彼女の手を両手で包む。
ゼデキア : 小さな手だ、と思った。けれど、俺は今まで何度、この手に、彼女の笑顔に、助けられてきただろう。
羽鳥陽 : 「この世界のためって、それはどういう……」真意を図りかねて、言った。
ゼデキア : 「君と生きる世界。君が笑っていられる日常。俺たちが…俺たちであれる場所」
ゼデキア : それが、ゼデキアにとっての世界。守るべき存在。
羽鳥陽 : 今まで聞いたことのないゼデキアのそんな台詞に、思わず目をのぞき込む。
羽鳥陽 : 「ふふ、お兄さん、案外ロマンチストだね~」なんて冗談めかして。
羽鳥陽 : 「また戦場に立つんでしょ。今はよくわからないけど……。もちろんあたしも付き合うから」
羽鳥陽 : 「今さら置いていくなんて言ったら許さないからね」
ゼデキア : 「――ああ」そう力強く笑ってくれる彼女こそ、“希望”だ。
ゼデキア : 「いこうか、陽。俺の…俺たちの戦場は…まだ終わりじゃない」それはきっと、果てしない道のり。
羽鳥陽 : 「そう、まだ終わりじゃない」
羽鳥陽 : 終わりなき戦場に、夢を視ている。
羽鳥陽 : この夢は、ここから始まる。
ゼデキア : そう、これは始まりだ。
ゼデキア : 世界を星喰から守るための。そして、大切な人と生きる日常を守るための。
ゼデキア : 本当の戦いの――はじまり。
-fin-
絶望のブリンガー:ゼデキア
希望のシース:羽鳥陽
白ペア、おつかれさまでした💐