カーテンコール5(ラスト)


白色のアイリス

ゼデキア : 夜も深いフラワーガーデン。

そこに、二人は“戻って”きた。 

ゼデキア : 「――」耐え難い疲労に襲われ、足元がふらつく。

だが、しっかりと力を入れて、踏みとどまる。  

ゼデキア : そんなゼデキアの隣に、彼女はいた。

――ずっと、いてくれた。 

羽鳥陽 : 「あーあ、負けちゃったね」 

羽鳥陽 : 激しい戦いの後とは思えない、呑気な声だった。 

ゼデキア : 「…そう、だな」そう答えるのが精一杯だった。 

羽鳥陽 : 「いや~あの子たち強かったね。百戦錬磨、一騎当千のゼデキアさんがあんなにやられるなんてさ。これは相手が悪かったかな」 

ゼデキア : 「――すまない」いつも謝ってばかりだと気づいたが、それでも言わずにはいられない。 

ゼデキア : 「願いを叶えてやれなくて。君を傷つけてしまって。俺は…弱い」

『弱い』と言う言葉を噛み締めるように。 

羽鳥陽 : 「お疲れさま」 

羽鳥陽 : そっと、抱きしめる。 

羽鳥陽 : たぶん彼はずっと戦ってきたのだろう。 

羽鳥陽 : 今だけは、戦士に休息を。 

ゼデキア : 「……君も」引き寄せられた腕に抗うことも、その意志もなかった。 

ゼデキア : 「おつかれ。…本当に…ここまで…長い戦いだった」その声は掠れている。 

ゼデキア : 今宵の相手――エクリプスではなく、星の騎士――彼らは強かった。 

ゼデキア : 赤く迸る情熱が。

そよぐ風のような太刀筋が。

聖女のごとき救済の意志が。

全てを作り変えんとする鋭い瞳が。 

ゼデキア : その重みが、想いが、刃となり、輝きとなり、花びらとなり、ゼデキアの戦場を終わらせた。 

ゼデキア : ――そう、終わったはずなのに。 

ゼデキア : 「俺はこれまで…“自分のため”だけに戦っていた。正直…世界なんてどうでも良かった。俺にとって世界は“戦場”でしかないから」 

ゼデキア : だというのに。

君がこの世界にいる。

自分の隣で、自分と一緒に戦ってくれた君が。 

ゼデキア : 君がいるのに、この世界が滅びてもいいだなんて思えるわけがない。

今度は自分のためではなく、彼女の、世界の為に。 

ゼデキア : 「――陽」 

羽鳥陽 : 「ん」 

ゼデキア : 「卑怯な大人ですまない」  

ゼデキア : そう言って笑う。きっとひどい顔だ。

ともすれば泣いてしまいそうに見えるような。 

ゼデキア : 「俺にはまだ…君が必要だ」 

ゼデキア : 「俺と一緒に…戦って欲しい」  

羽鳥陽 : 「なーに、改まって」 

ゼデキア : 彼女の柔らかい声音が、今はただ心地良い。 

ゼデキア : 「頼む…俺をおいていかないでくれ。独りにしないでくれ」 

ゼデキア : 「“俺だけでは戦えない”んだ」 

ゼデキア : それは星の騎士だからとか、そういう理由ではなく。 

ゼデキア : 「君がいてくれるから。俺は…世界に“希望”を見出せる。君がいない世界は、きっと絶望で真っ暗だ」 

ゼデキア : もはやすがるような声音で、そう告げた。 

羽鳥陽 : 「言ったでしょ。終わりが来るまで一緒に戦うって」 

羽鳥陽 : 「私たちはまだ終わってなんかない」

羽鳥陽 : 「願いが潰えたって、私たちはまだ終わりじゃない」 

ゼデキア : 「――君は本当に、強いな。俺より、よっぽど…」  

ゼデキア : 彼女の肩口に顔をうずめたまま。 

羽鳥陽 : 「そんなことない。独りじゃ強くいられないよ」 

ゼデキア : 「…そうか。君は、そう言ってくれるんだな」深く息をつくと同時に、引き寄せられていた上体を離し、彼女と正面から向き合う。  

ゼデキア : 「ならば。せめて俺の戦いが、本当に終わるまでは。一緒に…戦おう」 

ゼデキア : 「今度は――この世界のために」彼女の手を両手で包む。 

ゼデキア : 小さな手だ、と思った。けれど、俺は今まで何度、この手に、彼女の笑顔に、助けられてきただろう。 

羽鳥陽 : 「この世界のためって、それはどういう……」真意を図りかねて、言った。 

ゼデキア : 「君と生きる世界。君が笑っていられる日常。俺たちが…俺たちであれる場所」 

ゼデキア : それが、ゼデキアにとっての世界。守るべき存在。 

羽鳥陽 : 今まで聞いたことのないゼデキアのそんな台詞に、思わず目をのぞき込む。 

羽鳥陽 : 「ふふ、お兄さん、案外ロマンチストだね~」なんて冗談めかして。 

羽鳥陽 : 「また戦場に立つんでしょ。今はよくわからないけど……。もちろんあたしも付き合うから」 

羽鳥陽 : 「今さら置いていくなんて言ったら許さないからね」 

ゼデキア : 「――ああ」そう力強く笑ってくれる彼女こそ、“希望”だ。  

ゼデキア : 「いこうか、陽。俺の…俺たちの戦場は…まだ終わりじゃない」それはきっと、果てしない道のり。 

羽鳥陽 : 「そう、まだ終わりじゃない」 

羽鳥陽 : 終わりなき戦場に、夢を視ている。 

羽鳥陽 : この夢は、ここから始まる。 

ゼデキア : そう、これは始まりだ。 

ゼデキア : 世界を星喰から守るための。そして、大切な人と生きる日常を守るための。 

ゼデキア : 本当の戦いの――はじまり。 

 

 

-fin-

 


絶望のブリンガー:ゼデキア


希望のシース:羽鳥陽


白ペア、おつかれさまでした💐