ゼデキア
:学園都市の中央に位置する一つの広場。
:ここは「フラワーガーデン」と呼ばれる場所だ。
:周囲の花壇には花々が乱れ咲き、美しい景観を誇っている。
:しかし、この場に近づく者はそうそういない。
:――そういう「仕組み」になっているからだ。
:そんな場所で一人、ゼデキアはぼんやりと花々を見ていた。
:その背に近づく、一つの足音。
羽鳥陽
「……来てたんだ」
ゼデキア
「…ああ」振り返らずとも、もう声だけで誰かわかる。
「君も、来たんだな」
羽鳥陽
:ステラバトルの前日だというのに、パートナーの部屋を飛び出してきた。
:それなのに何故かここに足が向いていた。それはロアテラの影響によるものか、果たして……。
「なんか、自分でもよく分かんないんだけどね」
「何でここに来たのか」
ゼデキア
「俺もだ」そう答え、ようやく振り返る。
:そこには、見慣れた相棒の姿。……ともに、“大切な人を取り戻す”と誓った少女。
「――陽。俺は」
:伝えなければならない。今ここで伝えなければ、もしかすれば、もう二度と――。
羽鳥陽
じっと、ゼデキアの言葉を待つ。
ゼデキア
「確かに、先生に救われた。彼の教えは、今でも俺の胸の中に息づいている」
:忘れることなどできるはずもない、あの笑顔と……そして、たくさんの思い出。
「だが今は」
「今はそれだけじゃない。今俺が戦っているのは……」彼のためだけではなくて
「陽。……君と過ごす日常を。俺は……大切に思っている」
:そう告げる声は震えていた。
羽鳥陽
「過去を大事にしてるからこそ、ステラナイトとして戦っているってことはわかってる、私だって同じ願いを持ってるから」
「わかってたけど、けどね。私……お兄さんが過去だけを、先生のほうだけを見てるような気がして、寂しくなっちゃって、ごめんね」
「だから、今あたしと過ごす日常が大事だって言ってくれて……嬉しいな」
ゼデキア
「……」沈黙して聞き入る。
羽鳥陽
「戦おう、これがきっと最後になるよ。4体もやっつければ勲章だっていっぱいもらえるでしょ、願いはきっと叶う」
ゼデキア
「……あり、がとう。……君も、俺と過ごした日々を……大切に思ってくれるか?」
羽鳥陽
「当たり前じゃない。私はいつだって……大事に思ってたよ、お兄さんと過ごす時間。最初はそうでもなかったけど……いつのまにかそうなってた」
ゼデキア
「そうか。良かった……」安堵した表情。だが、まだ苦しそうな表情。
「俺は、今夜もここで戦う。だが、もう。俺は……俺たちの願いはきっと……――」
:最後まで言えなかった。
羽鳥陽
「願いはもう……ってどういうこと? ねえ!」
ゼデキア
「……言えない。いや、言いたくないんだ。俺だって、認めたくない……」多くの戦場をくぐってきたからこそわかる。
:もう自分達は手遅れなのだ。
羽鳥陽
「なんとか言いなさいよ!」
ゼデキア
「言ったとして、俺たちは救われるのか? 俺たちの願いは叶うのか? そうじゃない。そうじゃないだろう……!」
羽鳥陽
「そんな……」
ゼデキア
「…………すまない」そう答えるのが精一杯で。
羽鳥陽
:覚えはあった。かつて親友と過ごし、今はゼデキアと過ごすあの店。妙に居心地が悪かった気がする。
:友達からの他愛もないメッセージ。なんてことない内容にあんなに苛立ったことがあっただろうか。
:全てを理解した。自分たちは手遅れなのだ。
ゼデキア
:――それでも
「“戦わなければならない”。それが……俺たちの最後の務めだ」
羽鳥陽
「……それも、いいかもしれない」
ゼデキア
「……どういうことだ?」静かに聞き返す。
羽鳥陽
:最高の笑顔で、こう言いましょう。
「あなたのパートナーとして、世界を滅ぼすっていうのも悪くないかな」
願いを絶たれた絶望ゆえか、ロアテラの影響か……それは誰にもわからない。
ゼデキア
「――陽……」
:彼女の笑顔を、これほどに悲しく思ったことが、今まであっただろうか?
「君は最後まで俺の側にいてくれるのか……?」こんな、
:大切な人も守れず、願いも叶えられず、あげく彼女に消えない傷を残した自分を。
「最後まで、一緒に戦って…――」
:言葉は途中で途切れた。
:彼は天を仰ぎ見て、目を閉じる。
「――いや」意を決し、視線を戻す。彼女を、正面から見据える。
「最後まで、一緒に戦ってくれ、陽」
「世界を滅ぼすことになるとしても。俺たちが滅ぶことになるとしても」
「君にいてほしい……最後の、そのときまで」
羽鳥陽
「最後まで、一緒にいるよ」
「戦いましょう。終わりのときまで……」
「ゼデキア、あなたに力を」
ゼデキア
「――ありがとう」そう答えて、彼女に向かって手を差し出す。
羽鳥陽
:こちらも手を差し出しましょう。
ゼデキア
:ゼデキアは陽の手をしっかりと握った。
『天に祈れ』
羽鳥陽
『星に誓え』
ゼデキア
『神は力』
羽鳥陽
『力こそ真理』
ゼデキア&羽鳥陽
『終わりなき戦場に夢を視よ』
ゼデキア
:そう――夢を視ていたのだ。
:その夢も、もうすぐ終わる。
:ゼデキアと陽を包むように、白いアイリスの花びらが舞う。
:陽の姿は光となって消え……代わりに
:彼の手には、太陽のように輝く、まばゆい純白の大剣の柄が握られる。
「……陽。今までありがとう。叶うことなら……君は。君だけは」剣に額を寄せ、そう呟いて。
:周囲の景色が歪み――星々のきらめきが濁流のように押し寄せ――
:願いの決闘場は、“終わりなき戦場”と化した。
GM
:とうとう来たわね、ロアテラに支配されし者
:そしてよく来てくれたわ、星の騎士たち
:剣を持って示しなさい この世界はまだ戦えるのだと
:――いざ開け、願いと可能性の舞台
GM
:数多の流星が降り注ぐ丘の上。
:頂上に突き立つ十字架。その周囲に乱れ咲く白きアイリス。
:十字架の前に、異端の騎士が一人佇む。
:深紅の瞳があなたたちを見据えた。
ゼデキア
「ようこそ、星の騎士たち。ここが俺の戦場。夢にまで視た最期の地。さあ……命尽きるまで、共に踊ろうか」
GM
:彼は微笑み、閃光放つ大剣の柄を握って。
:常人なら持ち上げることすらままならぬそれを易々と振り上げ、切っ先をあなたたちに向ける。
:これこそが、戦場に焦がれ、戦場に愛された戦士の成れの果てだ。
ゼデキア
「もはや失うものすらない。迷う理由などない。俺に残された道はただ一つ。戦いに生き、戦いに散ること。どうか終わらせてくれ。俺の血濡れた戦場を……!」
GM
:その声が震えるのは歓喜ゆえか、絶望ゆえか。
:今宵もまた、星は巡る。
:願い在るなら剣をとれ。勝利を以て証明せよ。
:あなたたちの――誓いを。
ゼデキア
「今宵の騎士は4人か。できれば、君たちの名を聞きたい」
「これから、存分に戦う相手だからな」そう言って、彼は真紅のドレスを纏い戦斧を構えるルビィに視線を向ける。
ルビィ・スプライト
「私はルビィ、ルビィ・スプライト。あんたに恨みはないけど……世界のためよ、悪く思わないでね!」
ゼデキア
:それを満足げに聞いた彼は、続いて白い軍服に身を包むガルテリオに向き直り。
ガルテリオ
「俺の名はガルテリオ。――お前のような戦士に巡り合える日を願っていた。存分に味わうと良い。俺たちの……いや、この世界の力をな!」彼は好戦的に笑って、曲刀をゼデキアに向けた。
ゼデキア
:同じ戦闘狂かと乾いた笑い声を上げ。
:次は清らかな白いドレスをまとう聖女――セラミカに目を向ける。
聖・セラミカ
「――あなたは」聖の頬を、一筋の涙が伝う。
「あなたは、なんと哀れなのでしょう。……わたくしが。この聖・ツァドキエル・セラミカが――あなたを救済して見せます」
ゼデキア
:救済……できるものならお願いしたいところだ、と諦めたように。
:最後に、黒い衣服を纏いサーベルを携えた青年、エクサルを見やる。
エクサル
「……エクサル。エクリプスの想いに興味はない。しかし"終わらせたい"と望むのであれば。我が願いの糧として、その望み、叶えよう」
ゼデキア
「……そうか。今宵の騎士たちこそ、俺の戦場を終わらせてくれるのか」
「ならば武器をとり。俺に向けろ。己の願いの全てをかけて――」
ルビィ・スプライト
「言われるまでもないわ」戦斧をくるっと一回転させ、構える。
ガルテリオ
「もちろんだとも。容赦も情けも必要ない……お前の戦場はここで終わる! 俺の行く手と阻むのならば、――お前を、捻じ伏せる!」彼は強気に笑って曲刀を構えなおした。
エクサル
:言葉はなく、鞘からサーベルを引き抜く。初めて持つ筈のそれは、思いの外手に馴染んだ。
聖・セラミカ
:そっと、杖を抱くように構える。
:彼は前回戦ったエンブレイスよりもずっとずっと哀れに見えた。
:―――必ず、この手で救わなくてはならない。