カーテンコール2


薄緑色のシロツメクサ

ガルテリオ : ――慣れた感覚。土の匂いと、草花の香、そよぐ風を感じる。ゆっくりと目を開ける。 

ガルテリオ : 目の前には、見慣れた相手が立っていた。ガルテリオは、少しだけ、優しく微笑んだ。 

ガルテリオ : 「――ただいま、さつき」 

東原さつき : 「おかえり。ガルテリオ」

自分の目で戦場を見ていたから、無事なのはわかっていたけれど――その姿を、声を、確かめるように。 

東原さつき : 「…ただいま。」

そして、自分もまた無事に君の隣に戻ってきたことを、かみしめる。 

ガルテリオ : 「ああ、おかえり」彼女が、自分とともに戦場を切り開いてくれたことは十分に知っている。それでも、こうして、言葉を交わすことが。何気ないやりとりが。 

ガルテリオ : きっと自分の世界を変えていったのだろうと今ならわかる。 

ガルテリオ : 「へへっ、これで『お前と並んで』流星群が見れそうだな」彼は、へらりと少し気が抜けたように笑った。 

東原さつき : 「思ってた通り戦ってる最中は流星群見てる余裕なかったし、それに……んふふ、こうして声に出して話しながらのほうが嬉しいもんね。やっぱり私はこっちのほうが好き」 

そっと地面に座りながら、同じように笑みを見せた。 

ガルテリオ : 「だな。……よっと」彼も、さつきの隣に並んで腰を下ろす。そして、夜空を……空を駆ける流星を見上げた。 

ガルテリオ : 「おお……やっぱりすげえな。こうやって改めて見ると、これが……『綺麗』ってことなんだな、って思うよ」それは、この世界に来るまでは知らなかった感情だった。 

東原さつき : 「うん…私もここまで立派なのは見たことない。綺麗……」

普段はロマンティックとは無縁のさつきでさえ、ため息を漏らす。

けれど、ガルテリオにはきっともっと鮮やかなものに見えているのだろう。 

東原さつき : 「…よかったね。勝って」

別に、負けるとは思っていなかったけれど。 

東原さつき : こうして無事に二人で流星群を見た思い出ができることは、さつきにとって思いのほか嬉しかった。 

かつての自分なら、わざわざこんなところまで出てきて見ようだなんて思わなかっただろうから。 

東原さつき : 「どうする? なんか願掛けでもしてみる? なんだっけ、三回唱えたら叶うみたいな。なんかそういうの」 

ガルテリオ : 「ああ、なんかそういう願掛けがあるんだっけな、この世界には……でも、俺はいいよ」彼はさつきを見て笑う。 

ガルテリオ : 「欲しいものは、自分の力で手に入れる。お前もそうじゃないのか?」少し強気に、試すように、彼女の目を覗き込んだ。 

東原さつき : 「もちろん、そりゃそうよ、基本はね。でも…私だってお星さまにお願いしたいことがあるかもよ? 例えば……学食のカレーがポークからビーフになりますように。とかさ」 

東原さつき : なんて、冗談めかして言ってみる。

実のところ、さつきも星に願いをかけるつもりなんてない。 

東原さつき : 彼と一緒に星の騎士となったその日から、願いを叶えるのはいつだって『自分たちの力』になったから。 

ガルテリオ : 「ははっ、それは星に願うよりお前が直談判しに行った方が早いだろうよ!」彼はあっけらかんと笑った。だが、彼女が星に願いを託したりしないことはわかっていた。 

ガルテリオ : 「……なあ、さつき。1つ、わかったことがあるんだ」ガルテリオは、胸ポケットから四葉のキーホルダーを取り出す。一瞬、あのエクリプスたちの姿が脳裏をよぎった。 

東原さつき : 「ん?」 

ガルテリオ  : 「このステラバトルの前、お前が言ってただろ?『君の目に世界が綺麗に見えているなら嬉しい』って」 

ガルテリオ : 彼はさつきの目を正面から見返して笑った。 

ガルテリオ : 「俺は、『お前が笑うと嬉しい』。『お前が隣にいるから』……この世界を綺麗だと思う。きっと、お前が言ってたのは、そういうことなんじゃないかと思ったんだ」 

東原さつき : はた、と一瞬考える。

私はあの時、自分が暮らしていた街を褒められたから――そしてそれが自分の夢の舞台でもあることから、ガルテリオの言葉が嬉しく感じたのだと思った。 

東原さつき : でも、言われてみると確かに、もしかすると。

……自分も、上着のポケットからガルテリオにもらったキーホルダーを取り出した。 

東原さつき : けれど。そっと、流星群に目を向ける。

言葉も必要としないままに気持ちが通じ合う二人だったけれど。

「そういうことって、どういうことだろうなー。もうちょっとはっきり言ってみない?」

あえて、そう言ってみる。 

ガルテリオ : ガルテリオはきょとんとした様子でさつきを見返した。 

ガルテリオ : 「そういうことってどういうこと……って言われてもなあ……」彼はしばし思案したが、ふと思いついたようにさつきを見て明るく笑った。 

ガルテリオ : 「俺たちが、『最高のパートナー』ってことじゃねえのか?……ああ、でも」一瞬の沈黙、そしていつもより腹の内が読めない笑み。 

ガルテリオ : 「そうだな。きっと、俺を拳で殴れる女は……いや、殴ってもいい女は、お前だけって言えば良いかな」 

東原さつき : 思案の末の続く言葉を聞いて、ふふ、と笑い声がこぼれた。

「ん。つまり、君を殴らせてもらえる女は最高のパートナーである私だけ、ってことか」 

東原さつき : 「…ありがと。君にそーはっきり言ってもらえると。やっぱちょっと安心するよ」 

東原さつき : 「あ、そう、あとこれも。ありがとね。言ってなかったね、お礼」

手の中のキーホルダーが、流星の光を反射してきらめく。ふたりの幸福の象徴が、そこにはあった。 

ガルテリオ : 「ん、そういうこと。だからお前は安心して俺のパートナーでいてくれればいいんだよ。……俺も、改めて、お守りありがとうな」ふっと気を緩めたように笑う。 

ガルテリオ : ガルテリオはもう一度夜空を見上げた。 

ガルテリオ : きっと、自分たちの願いは届かぬ星に手を伸ばすようなものなのだろう。けれど、それでも。だからこそ、願いを叶えるための戦いが続くというなら。隣に、君がいてくれるというのなら。その願いは不可能さえ可能にするような力を持つに違いない。 

ガルテリオ : 彼はさつきに向かって拳を突き出して笑った。 

ガルテリオ : 「明日も、学食でたらふくメシを食おうぜ!お前といるとメシがうまいのは、俺も同じだからな!」 

東原さつき : 「ん、もちろん!」そっと拳に拳を合わせる。

「…あ、でも」 

東原さつき : 「こんなに素敵な景色をみた次の日だし、食欲出なかったらどうしよう? 今だってこんなに胸がいっぱいで……」 

東原さつき : 言い終わる前に、腹が鳴る。 

ガルテリオ : 「ははは、お前に限ってそれはねえよ!」ガルテリオは明るく笑って、合わせられたさつきの手をとって彼女を立たせる。 

ガルテリオ : 「……まずは、開いてる店探して、メシにありつくとするか。はらぺこさん?」心底楽しそうに彼は笑った。 

ガルテリオ : ――君とだから、叶えたい願いがある。その願いを抱き続ける限り、『星の騎士としての戦い』と、『君とともに歩む道』は終わらないのだ。 

 

 

-fin-

 


希望のブリンガー:ガルテリオ


絶望のシース:東原さつき


薄緑ペア、おつかれさまでした💐